リスクと付き合いながら減災型社会をどのようにデザインするか
21世紀社会デザイン研究科 長坂 俊成 教授
2019/02/17
研究活動と教授陣
OVERVIEW
近年、地震や水害などの自然災害が多発しています。日本に暮らす以上、決して他人事では済まされないこうした災害に対し、個人として、あるいは社会としてどのように備えればいいのでしょうか。また、実際に起こってしまった際には、どのような支援が必要なのでしょうか。長坂俊成教授に伺いました。
予測できない自然災害に対してどのように向き合うべきでしょうか。
これまで、自然災害は「闘う」対象でした。しかしこれからは発想を変えて、災害を一つのリスクと捉え、折り合いをつけながら「付き合っていく」ことが大切です。
具体的には、個人、地域、社会といったさまざまなレベルで、「どの程度のリスクまでなら許容できるのか」「どこからは許容できないのか」という基準を明確にし、容認できないリスクに対しては対策を講じる必要があります。個人レベルでは、国や自治体が公表している各種ハザードマップを参考に、自分の居住地域に潜むリスクを認識することから始めると良いでしょう。一方、地域や社会では、行政、専門家、企業、市民などの間でリスクを共有し、合意形成を図る「リスクコミュニケーション」が重要になってきます。
複雑化する現代においては、特定の専門知だけで減災型社会を実現することはできません。防災や福祉、まちづくりなど、さまざまな領域の知を組み合わせる、いわゆる社会デザインの考え方が不可欠です。地域や社会の課題に多様な視点からアプローチして初めて、問題解決の水準を高めていくことが可能になるのです。
具体的には、個人、地域、社会といったさまざまなレベルで、「どの程度のリスクまでなら許容できるのか」「どこからは許容できないのか」という基準を明確にし、容認できないリスクに対しては対策を講じる必要があります。個人レベルでは、国や自治体が公表している各種ハザードマップを参考に、自分の居住地域に潜むリスクを認識することから始めると良いでしょう。一方、地域や社会では、行政、専門家、企業、市民などの間でリスクを共有し、合意形成を図る「リスクコミュニケーション」が重要になってきます。
複雑化する現代においては、特定の専門知だけで減災型社会を実現することはできません。防災や福祉、まちづくりなど、さまざまな領域の知を組み合わせる、いわゆる社会デザインの考え方が不可欠です。地域や社会の課題に多様な視点からアプローチして初めて、問題解決の水準を高めていくことが可能になるのです。
社会デザインの考え方に基づいた被災地支援の在り方とは。
(左)移動式仮設住宅「モバイルハウス」はトレーラーで移動する (右)モバイルハウスを5連結して避難所で子どもの学習室に(北海道厚真町)
被災地への支援についても同様に、「社会の協働性」がカギになります。私自身の実践例としては、2016年に起こった熊本地震の際の活動が挙げられます。東日本大震災の教訓に基づいて見直された災害対策基本法では、市町村が要請する前に県や国が支援できる「プッシュ型支援」が導入されました。しかし、法改正後初の支援が実施された熊本地震では、発生直後の混乱の中で、医療ケアに必要な救援物資の行方が分からなくなる事態が発生したのです。熊本市の担当者から相談を受けて、私は茨城県内の複数の特別支援学校に依頼して医療物資を集め、現地で配布活動を行いました。
これは、本来の担当機関が役割を果たせないような場合に、多様な主体が協働してそれを補い、リスクを軽減する「リスクガバナンス」の典型例だと言えます。同じ課題を持つ者同士の広域ネットワークで支援する「ピアサポート」のほか、一般の現地ボランティアなども、このリスクガバナンスに該当します。こうした活動によってセーフティネットを重層化し、公助を補っていくことが、これからますます重要になると思います。
これは、本来の担当機関が役割を果たせないような場合に、多様な主体が協働してそれを補い、リスクを軽減する「リスクガバナンス」の典型例だと言えます。同じ課題を持つ者同士の広域ネットワークで支援する「ピアサポート」のほか、一般の現地ボランティアなども、このリスクガバナンスに該当します。こうした活動によってセーフティネットを重層化し、公助を補っていくことが、これからますます重要になると思います。
社会全体で防災?減災に取り組む上で今後どんな方策が必要でしょうか。
(左)設置工事の様子(北海道安平町)(右)日本初のモバイル型応急仮設住宅団地(岡山県倉敷市)
一つには、リスクへの対応策が、産業?観光振興やコミュニティの活性化につながるような形を目指すべきだと考えています。例えば、私が代表理事を務める(一社)協働プラットフォームでは、移動式仮設住宅「モバイルハウス」の設置を進めています。平時は子ども食堂や高齢者の交流サロン、インバウンド旅行者の宿泊施設として、災害時は避難所として活用できれば、地域課題の解決と災害時の備えを同時に実現できます。防災や危機管理を切り離して考えるのではなく、文化や交流を楽しみながら、さまざまな施策と一体的に実践していくことが必要だと思います。
さらに、若い世代を含めた市民の意識を高める防災教育の在り方についても、検討の余地があるでしょう。過去には滋賀県のテレビ?ラジオ局と連携し、災害時の非常食のコンテストを実施したこともあります。市民参加による番組づくりを行うコミュニティラジオを立ち上げ、有事には災害放送に切り替えられるよう、市民レポーターやディレクターを養成するといった方法も有効かもしれません。
立教大学は2017年、岩手県陸前高田市に、復興支援と交流の拠点として「陸前高田サテライト」を開設しました。ここでは、防災?減災研究で得た知見を実務的なツールやナレッジに変換し、自治体や市民自らが実践できる方策を提案している最中です。ゆくゆくはこのネットワークを全国に広げ、多様な人々や組織間をつなぎながら、社会に貢献していきたいと考えています。
さらに、若い世代を含めた市民の意識を高める防災教育の在り方についても、検討の余地があるでしょう。過去には滋賀県のテレビ?ラジオ局と連携し、災害時の非常食のコンテストを実施したこともあります。市民参加による番組づくりを行うコミュニティラジオを立ち上げ、有事には災害放送に切り替えられるよう、市民レポーターやディレクターを養成するといった方法も有効かもしれません。
立教大学は2017年、岩手県陸前高田市に、復興支援と交流の拠点として「陸前高田サテライト」を開設しました。ここでは、防災?減災研究で得た知見を実務的なツールやナレッジに変換し、自治体や市民自らが実践できる方策を提案している最中です。ゆくゆくはこのネットワークを全国に広げ、多様な人々や組織間をつなぎながら、社会に貢献していきたいと考えています。
長坂教授の3つの視点
- 減災型社会を目指す上で大切なことは、多様な領域の知の融合
- 「リスクガバナンス」により公助を補い、被災地を支えていく
- 地域社会や市民と一体的に実践する防災?減災対策
※本記事は 季刊「立教」247号(2019年1月発行) をもとに再構成したものです。 定期購読 のお申し込みはこちら
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。
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プロフィール
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長坂 俊成
☆2018年12月、「Webラジオちよだ」を開局長坂教授が局長を務める、千代田区に拠点を置くWebラジオ局がオープンしました。JR神田駅構内にブースを設け、地域住民の参加のもとでコミュニティ放送を配信。災害発生時には緊急情報を強制通知する仕組みも導入されています。